イベント(日本語教材)
オンラインワークショップ:初中級読解を見直そう! ―『The Great Japanese 30の物語 初中級 人物で学ぶ日本語』を使って―
講師:
石川智 先生(ボストン大学世界言語文学学科 専任講師)、米本和弘 先生(東京医科歯科大学統合国際機構 助教)、森祐太 先生(ライデン大学地域研究科講師)
日時:
2022年4月10日(日) 9:00 - 11:00
場所:
オンライン
【2022/04/22 開催レポート掲載】
こちらのワークショップは終了しました。
お申し込み・ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
「発表資料」「活動記録のまとめ」「お寄せいただいた質問と、講師からの回答」を掲載しました。
●発表資料
下記リンク先から閲覧・ダウンロードしてください。
●活動記録のまとめ
今回のワークショップでは、初級中レベルの読解授業の設計において「学習者が読みたいもの」と「教員が読解活動を通して学んでほしいと考えるもの」とのバランスを意識することができることを目標としました。
具体的には、1)学習者の読解活動に対する考え方を知る、2)読解授業を設計する際の検討材料を知る、3)自身の読解授業を見直すという流れで行いました。
3)のグループワークでは、①のウォームアップで共有した自身の読解活動に関して、②どんな改善や挑戦をしたいと思ったかを話した上で、③『The Great Japanese 30の物語』を用いた実践を考えました。以下にこれらの活動記録をまとめました。
①ウォームアップ
Q. 初級レベルで読解活動を行う時に、何か困っていること/難しいと感じることはありますか。
という質問について、参加してくださった先生からは以下のような回答がありました。
<教材について>
- 初級学習者のための教材が少ない
- 教科書はつまらないので、多読を取り入れている
- 学習者が大人なのに内容が子供っぽい
- 読むのがそもそも好きじゃない人もいるので、興味を持たせる教材がほしい
<読解能力と学生のモチベーションについて>
- 同じクラスでも学習者によって読むスピードに差がある(Exs. ローマ字を書きながら読む学生、カタカナが読めない学生、すらすら読める学生)
- 目標がコミュニケーションになっていて、読解にモチベーションがない学生がいる
- 語彙や文法の理解が中心で、今までスキルやストラテジーを考えたことがなかった
<読解授業とスケジュールについて>
- 読解に時間がとれない
- 授業のやり方(指導内容)が単調になりがち(Exs. 音読と内容確認)
②グループワーク1
Q.「初級レベルの読解授業と教材に対する認識を調査したアンケート結果(教師と学生)」「読解に必要な能力」「読解の授業と教材」についての話を聞いた後で、何か改善したいと思った点や挑戦してみたいと思ったことはありましたか。
という質問については、以下のような回答がありました。
<アンケート結果について>
- 教師は先を見据えて読解授業を組み立てているので、学生とは乖離があることがわかった
- アンケート結果で、学生が満足している(Exs. 教科書への印象、時間への満足度)のが意外だった
- テーマに対して、教師と学生との興味の違いが分かった
- 学生と教師とのアンケートの差が分かってよかった。自分の考えに捉われずに、広く取り上げていけば良いと思った
<読解能力について>
- 語彙力がないと理解できない。母語でも読む習慣がないと難しいのではないか
- スキャニングなどを教えられるスキルも教師に必要
- スキーマの活性化が初級では難しい。何かいい方法は?
- 読解に入る前のある程度の指導が薄かったことを再確認した。
- 教師は語学レベルに注目するが、学習者の興味をもっと考慮したほうがいいのかも。バランスが難しい
<読解の授業と教材について>
- 時間が割けていない、教科書以外の読解教材を扱えていないので、読解時間を増やしたい
- 学生の興味を全部拾うのは収集がつかなくなる。学校・大学の方針もあるので教材選択は難しい導入に時間がかかったり、そこで盛り上がりのピークが来てしまう。
- 学校でカリキュラムが決められていると調整が難しいが、スキマ時間に短い読解(カリキュラム外)をやっている。興味を持ってくれる。
- 多読とかも取り入れてみたい
- 再話とかジグソーリーディングとかやってみたいが、教師の仕込みが大変そう。
- グループ活動は管理が難しい。
- ジグソーリーディングには人数が必要。時間不足。
- 教師主体から学生主体で学習者同士で読んでいくことをやってみたい。
- グループワークで話し合いをして自力で答えを見つけさせる。学生主体の読解をやってみたら、積極的になった学生がいた
- 文法説明を重視するのではなく、学生が産出できる場を増やしたい
- タイトルなくともタイトルつけてみるなど
- なぜ読むのかの動機づけが大事
- トピックを選ぶとき、日本の伝統文化を取り上げたら学生の評判が良かった。教師が選ぶことが出来る範囲で、学生が興味を持てるトピックを選ぶと良い。
- 内容理解
- 文章の大意を読んで理解する
- (黒柳徹子)黒柳徹子がどういう人生を送ってきて、困難を乗り越えたかを理解する
- 読み物について意見を言う
- 日本語で内容について説明、意見・感想を言う。再話。
- (ドナルド・キーン)国籍・アイデンティティーを理解する、二つ以上の国籍を持つことについての意見が言えるようになる
- 自国との比較
- 読み物をきっかけにして、自国の問題を考える
- (黒柳徹子)自国の教育制度や学校について何か意見を言う。
- (徳川家康)家康をきっかけに興味を広げ、他の歴史の人物について知る。作文を書かせる(出てきた表現や単語を使う)。
- ウォーミングアップ
- 語彙は予習させる(しかしネットの引用で理解できていないことが多いので教師が補足で説明する)
- スキーマの活性化
- (黒柳徹子)作品の多国版を見せる、キーワードの紹介
- (ドナルド・キーン)導入で東日本大震災、日本人などの紹介
- (徳川家康)絵を見せて、どんな人か推測させる、動機づけにもつながりそう
- 読解/内容理解
- 黙読。音声を利用して聞き、ふりがなを振らせる。音読させる
- 段落ごとのトピックセンテンスを掴むために、グループワークをする。
キーワードとなる語彙だけを調べさせる - 文章全体をいくつかのグループわけ(3つ):①1・2段落、②3・4段落 ③4・5段落、その後グループを分け、全体把握
- 読ませた後の要約をさせる。違う視点での読み方につながりそう
- (徳川家康)家康になりきって話す。読解の楽しさや授業外での自立した読み手へつながるかも
- 読んだ後で
- 自国と比較する、作文やディスカッションにつなげる
- (黒柳徹子)発展的に「徹子の部屋」に留学生として出演する活動をする
②グループワーク2
Step1. グループで1つの実践現場(Ex. 大学、日本語学校、チューター)を想定してください。
Step2. 『The Great Japanese 30の物語』のサンプル(黒柳徹子、ドナルド・キーン、徳川家康)の中から1人選んでください。
Step3. その授業では学習者は何を目指すか、ゴールを決めてください。
Step4. どのような活動で読解授業を行うか、話し合ってください。
この読解授業案を考えるグループワークからは、以下のようなアイディアが見られました。
<Step3:目標設定>
<Step4:読解授業>
<まとめ>
初級段階では授業の中心が文法や会話になってしまいますが、中上級へ進むためには、早い段階からの読解の指導は重要だと思われます。アンケート調査からは学習者は現在の読解の授業についておおむね満足をしているようですが、それと同時に様々な事柄に興味を持ち、それに関することを読みたいと思っているようです。ただ初級では学習者自身が自分が興味を持っている分野の読解は難し過ぎて無理だろうと諦めてしまったり、教師側も同様の認識を持ってしまっているのかもしれません。しかし、今回のワークショップで話し合ったような精読以外の読み方に慣れさせたり、読む内容や作業を工夫したりすることで、初級からでも教科書以上の内容の読解に挑戦して、学習者の知的好奇心や興味を満足させ、学習効果を高めることにつながるのではないでしょうか。そのためにも、現状に満足せず、創意工夫を続けることが大切だということを、このワークショップを通して、改めて感じられたと思います。
●お寄せいただいた質問と、講師からの回答
下記リンク先から閲覧・ダウンロードしてください。
●開催情報
■会場 オンライン(Zoomミーティング)
■日時 2022年4月10日(日)9:00–11:00 日本時間
(4月9日(土)20:00-22:00 EDT)
(4月9日(土)17:00-19:00 PDT)
■参加費 無料
■定員 80名(先着)
■講師
石川智 先生(ボストン大学世界言語文学学科 専任講師)
プリンストン大学専任講師、北海道国際交流センター夏期日本語集中講座コーディネータ、ハーバード大学専任講師、アイオワ大学アジア・スラブ言語文学科専任講師、ミシガン大学アジア言語文化学科専任講師、ミドルベリー大学夏期日本語学校講師を経て現職。
米本和弘 先生(東京医科歯科大学統合国際機構 助教)
香港大学専業進修学院講師、マギル大学非常勤講師、ブリティッシュコロンビア大学講師、ミドルベリー大学夏期日本語学校講師などを経て現職。
森祐太 先生(ライデン大学地域研究科講師及び、国際学科日本語プログラムコーディネーター)
ミシガン大学専任講師、ハーバード大学専任講師、ミドルベリー大学夏期日本語学校講師などを経て現職。
講師から
初級読解の授業の目標とは? 具体的に何をすればいいの? 学習者がなかなか読めるようにならない! 学習者が退屈そう……。初級読解に関して、こんな疑問や悩みはないでしょうか。
本ワークショップでは、『Great Japanese 30の物語[初中級]人物で学ぶ日本語』を使って、教員が読解の授業を通して学習者に学んでほしいものとは何か、学習者が読解の授業で学びたいもの/読みたいものとは何かという視点から、よりよい読解授業について一緒に考えたいと思います。
■本ワークショップのテキスト
※テキストを持っていない方でもご参加可能です。
■申し込み
受け付けを終了しました。