イベント(日本語教材)

オンラインセミナー:一歩踏み込んだ「読み」の学習を仕掛ける ―『読む力』を使って

講師: コミュニカ学院 学習リソース開発チーム(竹田悦子 先生、丸山友子 先生、内田さつき 先生)
日時: 2021年8月22日(日) 14:00 - 16:30
場所: オンライン

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【2021/09/01 開催レポート掲載】

こちらのセミナーは終了しました。
お申し込み・ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

●講師からのコメント

日曜日の貴重なお時間を頂戴しまして、誠にありがとうございました。
限られた時間の中で全てをお話するのは難しく、ご参加の皆様のご期待に十分沿うものではなかったかもしれませんが、このセミナーが読むということについて考える機会になったのであれば幸いです。
今後、実際に『読む力』を使ってお気づきになられた点やアイデアなどありましたら是非共有していただければと思います。

●発表資料

PDF形式で公開します。下記リンクからご覧ください。
発表資料 >

※無断での転載や頒布はしないでください。
※セミナーで使用したものから変更・省略されている箇所があります。

●お寄せいただいた質問と、講師からの回答

Q:言語タスクと認知タスクの違いがよくわかりません。
A:言語タスクは、言語処理のみを要求するタスクです。言語処理とは、ことばの意味や用法、文法などの知識をなどを使って文章を文字通りに理解することです。たとえば、「~なので」という表現を見て、これが理由だと判断するような処理です。認知タスクは「言語処理」と「認知処理」が同時に必要なタスクです。認知処理とは、比較、推論、判断などの概念操作を行なってテキストの内容を読み取る際に行われる処理のことです。テキストに直接的に明言されていなくても、書かれたことをもとに合理的な推論の範囲でほぼ確実に言えることを読み取るのが認知処理です。よく日本留学試験の読解で「筆者が一番言いたいことは何ですか」という問いがあります。選択肢の内容はいずれもテクストに書かれており、どれも間違いではないため、「一番」がどれかはテクスト全体を読んで判断する必要があります。これなどは典型的な認知タスクの例です。ただし、同じ設問でも、テクスト内に「ここで最も強調したいのは~という点だ」のような明瞭なマーカーがあれば、言語タスクになります。

Q:言語タスクと認知タスクは連続的で重複部分もあるのではないでしょうか。
A:言語処理と認知処理はグラデーションになっていて、はっきりした境目がないのは確かです。言語処理も脳内の処理なので、広い意味では認知処理に含まれますが、『読む力』で「言語タスク」と呼んでいるのは、言語上の処理で片付く問題、たとえば、指示詞が明確に示す内容、明瞭な論理展開マーカーに導かれる論理関係、同義語による単純な言い換えの把握などです。そこに推論、比較、予想、判断などの言葉だけでは処理できない過程が加わり、その占める比重の大きいものを、ここでは「認知タスク」と呼んで区別しています。厳密な線引きをすることより、今、どちら寄りの処理が求められているのかを学習者に意識させることがポイントだと、私たちは考えています。

Q:言語タスクと認知タスクをなぜ分けて出題しているのでしょうか。
A:学習者自身が、今どのような処理を行っているのか明確に意識化・焦点化できるようにするためです。意識化することで学習効果がより上がると考えています。また、先に言語タスク、そのあと認知タスクを出すことで、文章に書かれたことを正確に読めたか言語タスクで確認してから、認知処理を伴うタスクを行うという流れができます。これにより、言語的に読めていないのか、認知処理が弱いのかも学習者自身がメタ認知できます。

Q:一斉授業において、「言語タスク」の読みの精度にバラツキがある場合、それでも「認知タスク」に入ったほうがよいのでしょうか。
A:本書が目指しているクリティカル・リーディングを実現するためには、認知タスクによって読みを整理していく課程が欠かせません。そして、認知タスクに進むためには文章を書かれたとおりに理解する言語処理ができているかの確認が必要です。読みのスピードに差がある場合は語彙リストを利用した予習を促す、言語タスクは宿題にするなどして、皆がテクストを文字通りに正しく読める状態にしておくことが大切です。

Q:どうやって正しく読めているかを確認するのですか。
A:理解の確認は、テクストの再読と読みの共有によって行うというのが私たちの方法です。言語タスクでも認知タスクでも、答えを出した根拠をテクストに基づいて、話してもらえば、その学習者の読みが妥当かどうか確かめられると思います。まず、根拠となるテクストの箇所が妥当か、次に、その箇所の解釈がずれていないかを確認します。タスクになっていない箇所の読みを確認したい場合も同様に、「〇段落の△行目に~とありますが、これはAという意味ですか? Bという意味ですか」といった口頭の問いで、理解が確認できると思います。ただし、「正しく読めているか」というのが、テスクトの細部まで一言一句、言語的に正確に理解できているか」という意味ならば、なぜそのような読みが必要だと感じるのか、「読めている」とは何を意味するのか、もう一度、問い直してみる必要があると思います。

Q:なぜ長文の読解が必要なのでしょうか。生活の中で、長文を読むことはあまりなく、必要性が低いように思います。
A:確かに長文を読まなくても日々の生活には差し支えないし、ネイティブでも読まない人はいます。最終的には、どのような日本語ユーザーになりたいかという学習者自身の選択の問題になるでしょう。しかし、読む力をつけることでどのような可能性が拓かれるのかを見せる必要があると思います。(知ったうえで、それを選ばないのは、学習者の自由です。)たとえば、知的な職業についたり、社会問題について自分の意見を形成したり、責任ある市民としてコミュニティーの意思決定に参加したりするためには、論理的思考が必須であり、それを培うには短文による断片的情報の収集だけでなく、長文の読解が必要だと私たちは考えています。

Q:プライベート、セミプライベートのビジネスパーソンで使用する際の留意点などがあれば教えてください。
A:読む力シリーズは、最終的にクリティカル・リーディングの力を身につけることを目的としています。クリティカル・リーディングの土台にはアカデミック・リーディングがあります。クリティカルに何かを読んだり考えたりする力は、ビジネス場面でも要求されるでしょう。本校でも留学生のみならずビジネスパーソンもこの教科書で学んでいます。クリティカル・リーディングへの第一歩は、まず、テキストを筆者の立場から理解することです。テキスト内の段落や文章の一部、あるいは全体をパラフレーズさせることで、学習者がその文章をどう読んだか確認できます。プライベートやセミプライベートの授業でも是非取り入れてみてください。

Q:ブレイクアウトセッションの課題について先生のお考えを教えてください。
A:私たちの考える「読みを深める仕掛け」は再読と読みの共有です。課題1の「第6課認知タスクの4番で全員が同じ答えだった」という場合でも、それぞれ本文をどのように読んで答えを出したのか共有します。それはピアでもクラス全体でもかまいません。まずは「面接官の判断の仕方とあるが、ここでの判断は何を判断することか(面接の合否)」など教師から問いを出し、正しく設問が読めているか、設問の意図を理解しているか確認します。その後「合否の決め方についてどこに書いてあるか」「会った瞬間、ということをどこから読み取ったか」などもう一度本文に立ち戻って学習者に説明してもらいます。課題2で「第6課認知タスクの3番で答えが分かれた」場合も基本的には同じです。まずは設問の「合否の基準」に注目させ、何を基準に合格か不合格かを決めるかが問われている問題だということをおさえます。そのうえで、本文のどこを読んで答えを選んだか、学生同士でピアやグループで話してもらいます。読みの共有をしたり再読を促したりする場合に、認知タスクでは何を問われているのか学習者が理解できていない場合があるので、注意が必要です。

開催情報

■会場 オンライン(Zoomミーティング)
■日時 2021年8月22日(日)14:00–16:30
■参加費 無料
■定員 80名(先着申込)

■講師
コミュニカ学院 学習リソース開発チーム
・竹田悦子 先生
・丸山友子 先生
・内田さつき 先生

講師から
テキストを読んで問題を解くだけの「読解」授業で、読みの力がつくのだろうかと感じることはありませんか? 字面を追うだけでなく、テキストをより深く読む力を養うために、そして、学習者の主体的な学びを促すために、私たちは読解授業を通じて、どのような学習を仕掛けていったらいいのでしょうか? 『読む力』シリーズは、現場のそんな問いから生まれた教材です。今回のセミナーでは、「日本語教育の参照枠」とのかかわりや最近のオンラインでの読解授業の工夫なども取り上げ、グループワークをまじえ、参加者の皆さんとごいっしょに、一歩踏み込んだ「読み」の学習について考えたいと思います。『読む力』をお使いの方も、初めての方も、どうぞご参加ください。

■予定内容
・「読める」って何ができること?
・「日本語教育の参照枠」から見ると…
・『読む力』シリーズの特徴、各レベルで学習できること
・読解授業実践の工夫をシェアしよう!

■本セミナー参考書
  

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