イベント(日本語教育)
オンラインセミナー:経験を積んでも得られない教師の知識・技能とは? ―文法・会話編
講師:
畑佐由紀子 先生(広島大学大学院人間社会科学研究科日本語教育学プログラム名誉教授)
日時:
2024年3月16日(土) 14:00 - 15:30
場所:
オンライン
こちらのセミナーは終了しました。ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
開催レポートとして、「発表資料」「ご参加者の感想の一部」「お寄せいただいた質問と、講師からの回答」を公開します。ご参考にしてください。
●発表資料
下記リンク先からPDFで閲覧いただけます。
発表資料(PDF, 2.3MB) >
※無断での複製や引用・転載はしないでください。
●ご参加者の感想の一部
お寄せいただいたご感想のうち、掲載許諾をいただいたものの一部を抜粋して掲載いたします。
日々授業をしていると、いつものやり方が楽なのでついそれに固執してしまいがちですが、自分が養成講座で学んでいたころにはなかった教授法も生まれているので、こういった学びは非常に重要だと改めて思いました。概念だけではなく、具体的な授業の展開のしかたまで教えてくださり、大変勉強になりました。
畑佐先生のお話はとてもいつもパワフルで、今日も刺激をいただきました。
研究史、日米の日本語教育の流れなど多岐にわたる内容で自分の立ち位置が確認できたように感じました。また、流暢さを初級から意識するという視点は大変参考になりました。これからの実践に生かしたいです。
「難しいものを先に教えた方が効率的なことがある」というお話を英語の関係代名詞を例にお話しくださったのが大変印象的でした。現在あるほとんどのテキストがcan-doシラバスであっても積み上げ型で、活用が既習か未習かにしばられた文型提示で、大変非効率的だと感じております(例えば「~んです」が辞書形やた形が既習でないと教えないがために「どこへ行きますか」のように不自然な会話練習をさせるはめになるなど)。そのことに何の疑問も感じていない教師が多いと思います。
今後は文法ありきではない新しいスタイルのテキストが出てくれないかなと願っています。
本日はありがとうございました。「会話指導が文脈つきの文法指導になってしまう」という点が現状の大きな課題であると思いました。また、語用論的側面が強調されがちだが、流暢さや正確性も重要であるということは、わかっているつもりでも「頑張って話して、通じている」という部分でスルーしてしまうことがあるので、それも含めての指導を考えていきたいと思います。
日本語の授業を受け持って、うまくいかない、と感じる度にこの本(1巻、2巻ともに)開いて道標とし、助けられています。この本は私のバイブルのような存在です。本文を読んでいると、「教師を支援する」ではなく「学習者を支援する」というタイトルに込められた想いがよく伝わってきます。
今日のお話を聞いて、理論に基づく指導というものは、説得性があるなと思いました。また読み直して、春からの授業に挑みたいと思います。
アメリカの大学で教えているのですが、教科書に沿って教えることが多いので、今日のセミナーに参加し、文法をいつ、どのように教えるか、会話をどのように導入し、指導・評価するかなど、今後見直していきたいと感じました。カリキュラムや指導方法を変更する際に畑佐先生のご本と今日のセミナーを参考にさせていただきたく存じます。
日本語の学習法が今後「フォーカスオンフォーム」を意識した形へ変化させるために各社が新たな教科書へ取り組んでいることが理解できました。
わたくしが勤務する学校では「みんなの日本語」を使用して指導を行っておりますが、「使える日本語」を意識して日常の生活での場面を想像させながら導入を考えていきたいと思いました。
初級の会話はどうしても、文法も語彙も制限されるため、自分のことを話す、目的意識を持たせることが難しかったのですが、さまざまな指導案を伺うことができ、ぜひ取り入れてみたいと思いました(3/2/1スピーキングなど)。
これまで提唱されてきた教授法を整理したうえで、TBLTについて説明してくださり、よくわかりました。また、実際に自分のやっている方法とTBLTが同じようなやり方だったので、やってきた方法が間違っていなかったことがわかり、安心しました。
●お寄せいただいた質問と、講師からの回答
Q:幼児日本語教育に携わっており、自由に話してもらう機会もあるのですが、児童の発言をリキャストで訂正しても、なかなか間違いに意識が向きづらい(気づき仮説が起こりにくい)ことを実感し、どのように訂正すればいいのか悩んでいます。
A:コミュニカティブな授業ではリキャストの効果が下がるという先行研究もありますので、より明示的なフィードバックがおすすめです。比較的年齢が高い児童であれば、振り返りのセッションを設け、グループで子供たちの音声、あるいは子供たちがよく間違えるエラーを含む第三者の音声を聞きながら間違いを探すゲームをすることも可能です。その場では間違いが直らなくても、意識化が図れるので、長期的には効果が期待できます。
Q:会話のことで質問があります。語用論という話がありましたが、最近、日本的な表現方法(曖昧に断る、何度も謝罪する、など)を文化の押し付けだと考える人がいると聞きます。先生は、どう思われますか。教室では、日本的な表現方法を教え、練習するべきでしょうか。
A:文化の押し付けになるかどうかは、実態を見て判断すべきだと思います。「昔からそう言われているから」という理由で教えてしまっては、ステレオタイプを与えるだけになってしまうかもしれません。けれども、実態を反映したものであれば、それは学習者が日本人と円滑に交流するために必要だろうと思います。
たとえば断りは、提案や助言、誘い、依頼によって、断るかどうか、断ると決めたときの断り方が異なりますし、相手が同世代か、目上かどうか、また依頼などの内容の負担度によっても異なります。そのため、すべて一様に婉曲に断るというのは、事実を誤認しているように思います。その一方で、婉曲に断ったり、お茶を濁すことが求められる場面もたくさんあります。学習者が断りたいと思ったとき、これらを鑑みて適切な対応ができるように教えることが大事だと思います。
謝罪に関しても同様です。日本人はいつも何度も謝るわけではありませんが、一つのストラテジーとして謝りの繰り返しをすることがあります。実際の指導場面では、謝りを繰り返すことが相手に好意的に見てもらえる場面かどうかをまず理解できるような指導が必要だと思います。
Q:「2. インタビューの事前練習(ロールプレイ)」のスライドでご説明いただいていたときに、「詳しくは○○(先行研究)のシナリオプレイに詳しく書いてあります」とおっしゃったと思うのですが、○○の部分を教えていただけますか。
A:De Pietro(1987)のシナリオ・アプローチのことだと思います。このアプローチは日本語には導入されていないので、『学習者を支援する日本語指導法Ⅱ』(p.412)に教え方の手順を書きました。
Q:2点質問したいことがございます。
1. TBLTのご説明スライドの中でポストタスクに「練習」とありましたが、エクササイズとの違いは何でしょうか。
2. さまざまな実践方法をご紹介いただきましたが、特に表現力を養う指導では、1タームの会話クラスで、複数回同様の指導項目を繰り返したほうがいいのか、いろいろな実践に挑戦させたほうがいいのか、どちらのほうが満足度が高いのでしょうか。学生の入国前にシラバス提出の必要があるため、学生に合わせて変更することが難しいので、一般的な傾向をご教示いただければ幸いです。
A:
1. 練習は、あらゆる教室活動を指します。ですから、エクササイズにもタスクにも、ロールプレイ、プロジェクトワーク、リスニング、リーディングなど、多岐の活動が含まれます。何を使うかは、指導対象や学習者の習熟度などによって異なります。
2. ご紹介した活動は、日々のウォームアップでできるようなものです。ですから、一度に集中的にやるというよりは、1回の時間は絞って繰り返し行うほうがよいと思います。学生さんがどの程度満足するかは、表現力を養う活動がほかの活動とどのように組み合わされているかにもよると思います。例えば、道案内タスクで建物を描写するのに、セミナーで紹介したような活動も使えますし、ジェスチャーゲームを使って、ジェスチャーを見て当てる側の学生にいろいろな表現を使わせることもできます。ですから、ターゲットタスクと表現を養う活動が連動していれば、より活動の価値がわかると思います。
●開催情報
「学習者を支援する日本語指導法」全2巻が完結したのを記念し、著者の畑佐由紀子先生によるオンライン講演会を開催します。
■会場 オンライン(Zoomミーティング)
■日時 2024年3月16日(土)14:00-15:30
■参加費 無料
■参加資格
どなたでも参加いただけますが、日本語教育や日本語指導に携わる方に向けた内容となります。
■講師
畑佐由紀子 先生(広島大学大学院人間社会科学研究科日本語教育学プログラム名誉教授)
1992年イリノイ大学にて博士号(言語学)を取得。1983年より日本語教育に従事し、イリノイ大学、パデュー大学、アイオワ大学、モナシュ大学等で教鞭を執るとともにカリキュラム開発及び教員養成を行う。2007 年に広島大学大学院日本語教育学講座の教授に就任。専門は日本語教授法と第二言語習得。主な著書に『学習者を支援する日本語指導Ⅰ 音声 語彙 読解 聴解』『学習者を支援する日本語指導法Ⅱ 文法 会話 作文 総合学習』『日本語の習得を支援するカリキュラムの考え方』(くろしお出版)、『第二言語習得研究への招待』 『外国語としての日本語教育―多角的視野に基づく試み―』 『第二言語習得研究と言語教育』(編著、くろしお出版)、Nakama: Japanese Communication Context, Culture(共著、Cengage Publishing)など。Modern Language Journal, Japanese Language and Literature, Language Assessment Quarterly, 『第二言語としての日本語の習得研究』、『日本語学』などに論文を発表している。Association for Teachers of Japanese の理事、日本語教育学会の評議員、大学日本語教員養成課程研究協議会の理事などを歴任。
講師から
近年言語教育に関する考え方は急速に変化しており、かつては主流と言われた教え方がそうではなくなっていることも少なくありません。けれども、日々の仕事に追われる言語教師にとって、この変化についていくのはとても大変ですし、自分の教え方やビリーフがアップデートされているのか振り返る機会もあまりとれないのではないでしょうか。そこで、このセミナーでは、文法と会話の指導に焦点を当て、TBLTなどをはじめとする近年の研究や教え方について紹介したいと思います。
■本セミナー関連書
※本を持っていない方でもご参加可能です。
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