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オンラインセミナー:現場に役立つ日本語教育研究 ―経験からデータへ―

講師: 山内博之 先生(実践女子文学部教授)、森篤嗣 先生(武庫川女子大学教授)、岩田一成 先生(聖心女子大学教授)
日時: 2023年6月24日(土) 14:00 - 15:30
場所: オンライン

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こちらのイベントは終了しました。ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
「発表資料」と、「お寄せいただいた質問と、登壇者からの回答」を公開しますので、参考にしてください。

●発表資料

山内博之先生の発表資料(当日のレジュメ)です。下記リンク先からPDFで閲覧いただけます。
※無断での複製や転載はしないでください。

発表資料を見る(PDF, 450KB) >

●お寄せいただいた質問と、登壇者からの回答

Q:例えば、動詞の活用を音声で教える場合、学習者がその活用ルールについて知りたいということも出てくるかと思います。生活者のための短期間の日本語学習なら文型はすべて「です、ます」でも良いのかもしれませんが、実際の現場では様々なケースがあると考えられます。

Q:初級の学習項目(文法・語彙)をしぼることは具体例となる教材も複数あってイメージがしやすいのですが、N3, N2, N1を目指すレベルのいわゆる中上級の学習者は本当は何をするのがよいのかわかりません。ひたすら表現文型のようなもの(~ばかりでなく、~ばかりか、~どころか、~というものだ、~ないことはないetc.の意味と接続)を覚えることに苦労している学習者を見ると、教師の自分は何をすべきか、社会がどのように変わったら試験が変わるのか知りたいと思っています。

A(岩田、上記2つにまとめて回答):ます形による初級の提案は、使いこなせない人に文法を詰め込むことを批判したものです。ます形だけで教育を終えるという意図ではありません。まずはます形を終えたら、OPIで中級が取れるくらいの運用能力を身に付け、そのあとでニーズに合わせて、他の文法形式を導入すればいいと考えています。
既存の教材でも対応は可能です。N1を目指す人は、やはり試験対策のような表現文法の暗記も必要かと思います。

Q:現在文化庁が進めている、日本語教育の参照枠についてどのようなご意見をお持ちか聞いてみたかったと思います。

A(山内):学習者にとっての日々の学習は、文型や表現を1つずつ覚えていくことですが、しかし、その最終的な目標は、proficiencyの向上や課題解決能力の向上だろうと思います。
日本語能力を向上させようと思ったら、やはり文型や表現を1つずつ学習していくしかないのですが、しかし、proficiencyの向上にあまり寄与しない文型や表現の学習もあります。文型や表現の学習の積み重ねがproficiencyの向上にうまくつながるように持っていくことが、その教育機関の腕の見せどころだと思います。
現場の教師たちにとってはとても大変なことだろうとは思いますが、最終目標が「使える日本語」であることを示すのはいいことなのではないでしょうか。私は、基本的に、日本語の参照枠の考え方を進めることには賛成です。

Q:初級の負担が大きいというのは、やはりJLPT対策としてあれもこれもとなっているのが原因かなとも思います。出題範囲をきちんと公表してくれれば、負担も減るのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

A(森):2009年までの旧JLPTでは出題範囲(語彙や文型など)を公表していましたが、2010年からの新JLPTでは公表されなくなりました。新JLPTでは尺度得点になったので、問題プール方式を採る必要があったとされています。一方で、試験作成にあたって出題範囲が縛りとなり負担だったことも事実だと思います。初級の負担と出題範囲の公表は少し異なる問題かと思われます。公表したらしたで、その項目を網羅することが義務づけられるわけで、公表=負担減とはなりません。もちろん、大幅に絞り込んだ出題範囲が検討された上で公表されれば負担減につながると思いますが、そこまでの研究の蓄積は出題側にはまだないと思います。研究の蓄積が必要です。

Q:「語彙」シラバスの重要性のお話がありましたが、授業はどうやるのが効果的なのかも知りたいところです。

A(岩田):毎日の授業目標として特定の文法形式を設定するのではなく、話題や語彙を設定することになります。目標とする場面の会話を練習したり、映像を見せたり、リスニングを行ったりするのも一つの形かと思います。文化庁の標準的なカリキュラム案は、この流れにあります。
また、ロールプレイなどもご活用ください。語彙(話題)とロールプレイの関連は『実践日本語教育スタンダード』(ひつじ書房)に一覧があります。

●開催情報

現場に役立つ日本語教育研究

「現場に役立つ日本語教育研究」シリーズ 全6巻が完結したのを記念し、山内博之先生、森篤嗣先生、岩田一成先生をお迎えして、オンラインセミナーを開催します。

■会場 オンライン(Zoomミーティング)
■日時 2023年6月24日(土)14:00-15:30 ※録画配信はありません

■参加費 無料

■登壇
▽発表者
山内博之 先生(実践女子大学文学部教授・シリーズ監修、第1巻共編)
筑波大学大学院修士課程経営・政策科学研究科修了。経済学修士。岡山大学文学部講師、実践女子大学文学部助教授を経て、現在、実践女子大学文学部教授。著書に『[新版]ロールプレイで学ぶ中級から上級への日本語会話』(凡人社、2014)、『プロフィシェンシーから見た日本語教育文法』(ひつじ書房、2009)、『OPI の考え方に基づいた日本語教授法―話す能力を高めるために―』(ひつじ書房、2005)などがある。

▽質問者
森篤嗣 先生(武庫川女子大学教授・第2巻編)
大阪外国語大学大学院修了。言語文化学博士。実践女子大学助教、国立国語研究所准教授、帝塚山大学教授、京都外国語大学教授を経て、現在、武庫川女子大学教育学部教育学科教授。著書に『ニーズを踏まえた語彙シラバス』(編著、くろしお出版、2016)、『授業を変えるコトバとワザ-小学校教師のコミュニケーション実践』(くろしお出版、2013)などがある。

岩田一成 先生(聖心女子大学教授・第6巻編)
大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了。言語文化学博士。国際交流基金日本語国際センター専任講師、広島市立大学国際学部講師、准教授を経て、現在、聖心女子大学文学部准教授。著書に『読み手に伝わる公用文―〈やさしい日本語〉の視点から―』(大修館書店、2016)、『日本語教育学の歩き方―初学者のための研究ガイド―』(共著、大阪大学出版会、2014)、『日本語数量詞の諸相―数量詞は数を表すコトバか―』(くろしお出版、2013)などがある。

山内先生から
教師とのやりとりによって学習者の日本語能力を高めていく場が、日本語教育の「現場」です。そして、その「現場」を外から眺めて分析・考察し、「現場」のレベルを高めることに寄与しようとするのが「研究者」です。大学の教員は、もちろん「研究者」なのですが、日本語学校の教務主任も、「現場」を外から眺めて「現場」のレベルを高めようとしているでしょうから、その意味では「研究者」であると言えます。また、「現場」の教師の中にも、「現場」を外から眺めて「現場」のレベルを高めたいと考えている人がいるでしょう。その人たちも、やはり「研究者」であると言えます。このセミナーでは、そのような「研究者」たちを対象に、「現場」に役立つ日本語教育研究についてお話ししたいと思います。

■参考動画
山内博之先生へのインタビュー動画です。ご参考にしてください。

■お申し込み
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