イベント(日本語教育)

オンラインイベント:成長し続ける日本語教師をめざそう!

講師: 横溝紳一郎 先生(西南学院大学外国語学部教授)
日時: 2022年1月22日(土) 14:00 - 15:30
場所: オンライン

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こちらのイベントは終了しました。
お申し込み・ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

【2022/01/31 追記】
「お寄せいただいた質問と、講師からの回答」を掲載しました。

【2022/01/28 追記】
お申し込みいただいた方に、アーカイブ視聴のご案内をメールでお送りしました。メールが「迷惑メール」や「プロモーション」のフォルダに自動で分類されてしまうことが多いため、よくご確認ください。
※事前にお申し込みされていない方は、アーカイブ視聴はご利用いただけません。

●講師からのコメント

子どもの頃、福岡市の平尾山荘の敷地内でよく遊んでいました。そこの住人だった野村望東尼さんが、高杉晋作さんとともに詠んだ句があります。それが「おもしろき こともなき世を おもしろく すみなすものは 心なりけり」です。この句は「心のもちよう」の大切さを教えてくれます。先の見えないコロナ禍だからこそ、プラス思考の成長マインドをもって、力強くしなやかに今この時を生きていきましょう。

●お寄せいただいた質問と、講師からの回答

Q:教師の発達モデル(Teacher Development)について、4つの型を紹介していただきましたが、具体的にはどのような成長の型なのでしょうか。
A:秋田喜代美(1999)「教師が発達する筋道:文化に埋め込まれた発達の物語」,藤本完治・澤本和子(編著)『授業で成長する教師』ぎょうせい(pp.27-39)

  1. 成長・熟達モデル:教授技能や認識のしかたが経験とともに増大し安定する。より適切に子どもにとって豊かな経験を保障できるよう変わっていくというモデル。
  2. 獲得・喪失両義性モデル:教授技能や認識のしかたが経験とともに増大し安定する。より適切に子どもにとって豊かな経験を保障できるよう変わっていくというモデル。
  3. 人生の危機的移行モデル:各年代において教師が何らかの危機(発達課題)に向かいながら過ごしているとするモデル。
  4. 共同体への参加モデル:職業コミュニティヘの参加過程として、共同体の中でいかにそのメンバーが一人前の成員となっていくのか、そこでの成員間のやりとりの過程を社会文化的視点から記述しようとするモデル。

Q:教師学(T.E.T.)と親業訓練(P.E.T.)について、もう少し詳しく教えていただけませんでしょうか。
A:詳しくは、こちらをご参照ください。
おやぎょうとは | 親業訓練協会
ゴードン博士 | 親業訓練協会
親業訓練 … P.E.T.(Parent Effectiveness Training)とは?|Good Finder House
教師学講座 Teacher Effectiveness Training (T.E.T.)|Good Finder House

Q:養成課程の模擬授業では、文型積み上げ式の授業実践をされていましたが、ほかにも具体的な教え方を指導されているのでしょうか。たとえば、アクティブ・ラーニングを引き出す授業実践は、どのようなことをされていますか。
A:お見せしたマイクロ・ティーチングは、3年間の養成課程の1年次後期で行っていたものです。2年次前期は、1年次に学んだ様々な知識に基づいて、導入・文法説明・ドリル練習・ペアワーク・ロールプレイ等の様々な活動の実践を体験させていきます。2年次後期は、教案の書き方や教材作成などを行ったうえで、いわゆる模擬授業を行い、フィードバック・セッションの時間を設けます。3年次の教育実習(通年)は、こういった2年次までの体験をふまえて、「よ~い、ドン!」で、実際に外国人に対して日本語を何度も教えます。教育実習期間中の模擬授業は、教壇実習授業直前のリハーサルとして行っています。こういった形で、「2年次までに様々な教室活動に関する知識と技能をある程度蓄積した上で、日本語教育実習を迎える」というのが、私が前任校で行っていたことです。

なぜこのようなプロセスで進めていたかというと、「養成段階ではジェネラリストの育成が大切」と私自身が考えているからです。養成課程を終えた学生は卒業後どのような教育機関で働くか分かりませんので、できるだけ「どこに行っても通用する」力をまずは身につけてほしいという思いで指導をしています。加えて、様々な活動の体験をさせる時には、「この活動で、学習者の頭を脳働的にするには、どんな工夫ができる?」とも問いかけ続け、アクティブ・ラーニングを引き出す方法についても考えさせています。「基本的な知識と技術」プラス「教える相手に合わせて授業をデザイン・運営しようとする柔らかさ」を養成課程で身につけることができれば、その後の大きな成長が期待できると私は考えています。

Q:コロナ禍での実習や模擬授業は、どのように行ったのでしょうか。また、マスク着用のままでも豊かな表情でやり取りをするためのコツはありますか。
A:前任校での実習や模擬授業は、受け入れ教育機関のご厚意で、フェイスシールド+不織布マスクの両方を着用した上でしたが、対面で行うことができました。マスク着用のまま豊かな表情でやり取りすることはとても困難ですが、眉でかなりの表情を伝えることは可能かと思います。異文化間コミュニケーションの授業で、ノンバーバルコミュニケーションの一つとして「表情」を取り上げる時は、このサイトを観てもらっています。ご参考まで。
The secrets to decoding facial expressions – YouTube

Q:初任段階の日本語教師がどのように過ごすかによって、その後の教師生活も大きく変わると思います。この段階の教師には、どのような勉強をするよう声をかければよいでしょうか。
A:教師として成長するためには、ある一定の教育技術を獲得することは重要なのですが、それだけでは不十分であり、省察(リフレクション)を繰り返し、実践知を獲得し続けることが必要不可欠です。「省察(リフレクション)を中心とした研修」をおススメします。詳しくは、『日本語教師教育学』をご参照ください。

Q:中堅以降の日本語教師について、どのような成長段階や教師研修の方法が考えられるでしょうか。『日本語教師教育学』にある「セルフ・アウェアネス」を深める研修と、実践の共有について詳しく教えていただけませんか。
A:中堅段階になると、日本語授業そのものを超えた高次元かつ広範囲の資質・能力が求められ、中核人材つまりリーダーとしての管理能力が求められます。リーダーは「自分の強み(+弱み)」を認識していることが必要不可欠で、まず「自分自身を理解すること」が求められます。その方法として、「ライフヒストリーによる自己理解」「エゴグラムと交流分析による自己理解」などがあります。詳しくは、『日本語教師教育学』をご参照ください。

Q:学内で教師研修を行おうとしても、積極的に参加をしない先生がいらっしゃいます。また、研修を行っても、実践ではまったく生かされていないと感じることも多いです。教師研修をうまく行うためのアイデアはありますか。
A:セミナーの中で何度もお名前が出てきた中嶋洋一先生は、教員研修のプロ中のプロです。その中嶋先生が、「研修のコーディネータは、『まずは何を学んでほしいか』を説明し、終了後に『何と何が学べたかということ』を整理し参加者に伝えることが重要」とおっしゃっています。私も同感です。私が小・中・高の英語の先生の研究授業の指導助言者を務める時は、そのことを常に念頭に置いています(これは「実践の意味づけ」と呼ばれるものです)。詳しくは、菅正隆・中嶋洋一・田尻悟郎(2004)『英語教育ゆかいな仲間たちからの贈りもの』日本文教出版の中の「こんな教員研修を受けたい!」をご参照ください。

Q:日本語教育以外の人ともつながりたいと思っていますが、どのようにコミュニティを探せばよいのか難しいと感じています。横溝先生はどのように人の輪を広げていますか。また、そのモチベーションはどこから来るのでしょうか。
A:私は子どものころから、「面白そう」「やってみたい」と思ったら、何も考えずにすぐにその世界に飛び込んでしまう、という性格だったようです。それが、サンディエゴ留学でさらにパワーアップして、今に至ります。これまでの体験から、私は「『どのコミュニティにすればよいのか』を探すよりも、自分が興味を持ったらすぐ行動に移してみる方が人の環は広がる」と考えています。

Q:「教師の成長」を前向きにとらえられなくなってしまったとき、気分転換だけでは気分が晴れないとき、横溝先生はどうしていらっしゃいますか。
A:素敵なことばが書かれてる本を読むことにしています。と同時に、自分が前向きになれない原因を考えて、その原因にどう対応していくか対策を立ててみます。いつもこれでうまくいくわけではないのですが、かなりの場合、対応策を考え始めるあたりで、前向きな気持ちに変わっていることが多いです。

Q:学習者が望む3K(気づきたい、関わりたい、決めたい)について、自律的な学習を望まないような学習者がいた場合、どのように対応されてきましたか。3Kを引き出すために、意識していることはありますか。
A:慣れていないことに抵抗があるのは当たり前だと思います。「決める」「関わる」「気づく」体験を少しずつ積み重ねていくことで、自らの学びを自分で責任を持って管理する力(「自己調整能力」)が伸びてきます。L・B・ニルソン(2017)『学生を自己調整学習者に育てる』北大路書房中田賀之(2015)『自分で学んでいける生徒を育てる―学習者オートノミーへの挑戦』ひつじ書房が、ご参考になるかと思います。

Q:子どもたちに英語を教えられているご経験から、外国にルーツのある子どもたちへの指導について、ご意見やアドバイスをいただけませんでしょうか。
A:外国にルーツのある子どもたちに直接指導したことがありませんので、意見やアドバイスなどできる立場にはないと思いますが、「日本語そして日本語学習を好きになってもらうこと」がまずは一番大切だと思います。子どもたちにラグビーのコーチをしていた時も小学校で英語を教えていた時も、「うまくなること」よりも「好きになってもらうこと」を常に意識していました。田中茂樹(2011)『子どもを信じること』大隅書店 (p.77)は、こんなことを言っています。

生きていくうえで基本となる行為については、「まず好きになる」ことが大切であって、それが「上手にできる」とか、「正しくできる」のは、好きになった後でよい、ということです。(中略)「まず好きになる」ことが大切というのは、いろいろなことにあてはまります。新しい友達と出会うこと、知らないところに行くこと、といった未体験の事柄にチャレンジする場合はもちろん、食事をすること、お風呂に入ること、といった日常生活の基本要素についても、「まず好きになる」ことはとても大切です。私が、この本で最も強く主張したいことは、このようないろいろなことを、子どもが「まず好きになる」ということの大切さです。そして、親は、このことを子育てにおける一番の目標に据えるべき、あるいはもっと言うと、このことだけを目標にするのでもよいと私は考えます。

このことは、外国語教育への大きな示唆だと、この頃の私は感じています。「学習者が外国語を好きになる」ことを大目標として据えた上で、授業をデザイン・運営しようとすれば、教室活動の工夫、もっと言うと「教師がやるべきこと、やってはいけないこと」がしっかりと見えてくると思います。

Q:今後「日本語教師の育成者」というポジションは、公的に整備されていくのか、それとも教育機関等においてそれぞれがつくりあげていくのか、どのようにお考えでしょうか。
A:公的な整備がなされることが理想だと考えますが、すぐにそうはならずに、「教育機関においてそれぞれが作り上げていく」ことになるだろうと予想しています。「教師教育者」に求められる資質・能力とそれらを伸ばす方法を、これからも考えていきたいと思っています。

●開催情報

■会場 オンライン(Zoomウェビナー)
   ※ウェビナーの定員を上回る申込があった場合は、YouTubeライブ配信を併用します
■日時 2022年1月22日(土)14:00–15:30
   ※お申し込みいただいた方のみ、後日1週間のアーカイブ視聴も予定
■参加費 無料

■講師
横溝紳一郎 先生
西南学院大学外国語学部教授
ハワイ大学大学院より修士号(MA)および博士号(Ph.D.)取得。元日本語教育学会理事。日本語教師養成に加え、国内外での日本語教育・教師教育に関する講演/研修を行う一方で、在住地の福岡でさまざまな教育活動に積極的に関わっている。主な著書に、『クラスルーム運営』(くろしお出版)、『日本語教師のためのアクション・リサーチ』(凡人社)、『日本語教師のためのアクティブ・ラーニング』(共著、くろしお出版)、『教案の作り方編(日本語教師の7つ道具シリーズ+(プラス))』(共著、アルク)、『生徒の心に火をつける―英語教師田尻悟郎の挑戦―』(共著、教育出版)、『成長する教師のための日本語教育ガイドブック[上・下]』(共著、ひつじ書房)、『日本語教師の成長と自己研修―新たな教師研修ストラテジーの可能性をめざして―』(共編著、凡人社)、『リフレクティブな英語教育をめざして―教師の語りが拓く授業研究―』(共編、ひつじ書房)等がある。

yokomizo

◎講師から
西南学院大学在学中に留学した米国サンディエゴで「日本語教師になろう!」と志した時から数えると、かなりの年数が経過しました。大学卒業後に日本語を教え始めたハワイでは、何度も自分の未熟さを痛感し、何とかその状態から脱しようともがいていました。その後帰国し、様々な教育機関で教鞭を取っているうちに、いつの間にか私の専門が「教師教育」になっていました。こんな私ですので、大所高所から物を言う資格はないのですが、一つだけお伝えしたいメッセージがあります。それは

教師としての成長のきっかけは、いつでもどこでも見つけられます。きっかけを楽しみながら探し出し、一歩踏み出してみましょう。

です。このオンラインイベントが、そのきっかけの一つになればと心から願っています。



■予定内容
・成長し続ける教師とはどのような教師なのか
・教師はなぜ成長し続ける必要があるのか
・教師の成長段階についての理論
・段階別の具体的成長方法
・教師教育者となった時のために
・成長し続けることにちょっと疲れたら…

■関連書
 

■お申し込み
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